輩=過去の私のことです。音声作品をそんなに齧ってこなかった私が、とある音声作品を聴いたらめっさすごくて驚いたので今日はその話をする。
フォロワーの方から音声作品のプレゼントをいただいた。それが『イルミラージュ・ソーダ』だ。
今日の主役。誕生日やったー!🎉
これからも百合作品の考察と感想を書いていきたいと思います🎁逆プレゼント企画🎁
8/13 24時までに相互フォロー&このツイートをいいねしてくださった3名様に抽選で、終末百合音声『イルミラージュ・ソーダ』をプレゼント
※DLsiteでのギフトコード配布・非公式です pic.twitter.com/dZ7GrtIidg— にきしー (@Nixie_SS) August 12, 2022
逆プレゼント企画の当選者です~!!!(乱数作成関数F9押しっぱなしで決めました)
おめでとうございます!!!(ゴリ押し)@syam_486 @seijirolilly @mypace_megumi https://t.co/5HQlPAvx9f pic.twitter.com/HzREeoWuxU— にきしー (@Nixie_SS) August 13, 2022
誕生日を迎えた人からプレゼントされることに「いいのか!?」という気持ちもありつつ、素直にめちゃくちゃ嬉しい。疎いジャンルは死角で見えないので、他の人にお薦めされるしか知る方法がない。のでこういうきっかけをいただけるのはめちゃくちゃありがたいのです。本当にありがとうございます。
イルミラージュ・ソーダは、終末百合を題材とした音声作品。世界はあと少しで終わる。作品の中には『先生』と『サカナ』の二人きりの世界が詰まっている。
再生ボタンを押した私はすぐに困惑した。先生とサカナが登場する作品ではあるが、聞こえてくるのはサカナの声のみ。
イルミラージュ・ソーダはサカナが先生へ語りかける形式の作品なのだ。世界には先生とサカナの二人しかいないため、サカナの声を聞いている私=先生ということになる。
しかし、当然のことながら私は先生ではない。サカナの声を聞いている私は一体誰なのか?どこでこの百合を楽しめば良いのかがわからず、私は始まって早々居場所を失ってしまった。
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“あなたが百合を楽しんでいるとき、あなたは一体どこにいるのか?”
この手の話題は良く聞くが、大抵は「観葉植物になりたい」だとか「壁になって見守りましょう」という意見に落ち着く。まぁぶっちゃけ、第三者視点で描かれた百合作品を楽しんでいるのなら、壁になっていようが空気だろうが神だろうがあまり変わらない気がする。
ただ、これが片方視点の百合となると話が変わってくる。片方の主観から百合を見るとき、「あなたはどんな立ち位置にいますか?」の答えを持ち合わせていないとすごく困る。作中の女の子は私に向かって声をかけるが、私は相手の女の子ではないのだから。
ちょっと困りながらもそのまま聴いていた私に不思議なことが起こってくる。ビックリする体験だった。聴き始めた時は透明だったはずの先生が、私とは違う存在としてじわじわと浮かび上がってきたのだ。
先生を作り出した材料は色々あるのだけど、まずサカナ役である奥野香耶さんの演技のすごさを挙げたい。サカナは、話しかけた先生の言葉が容易に想像できるくらい本当に嬉しそうな声をする。サカナのリアクションが先生のリアクションを創る。声優さんの力量のすごさで「一人で会話をする」という一見メチャクチャなことが成り立っている。
そして台本。喋る人がサカナしかいないので、先生についてはサカナの口からしか説明するしかないのだが、説明しすぎると今度は会話として不自然になる。この辺りのバランスを取るのは難しいと思うのだが、説明的ではないがちゃんと先生の情報が出てくるサカナのセリフはすごい。細部まで調整された言葉に魂がこもる。
あとは音。サカナと先生の服が擦れる音。
これらの要素が集まって、先生のガワを私の周りにゆっくりと作っていく。おぼろげだった先生の輪郭が聴いているうちにはっきりしてくる。先生の困った顔がイメージとして浮かんでくる。すごい体験だと思った。ほぼ心霊体験ですよこんなの。
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私はそんなに音声作品に詳しくはない。が、百合のドラマCDをいくつか聴いたことくらいはある。感想としては「まぁつまりは”聞く”アニメだよね」みたいなところに落ち着いた。もちろんこれはこれで大変良いものである。
しかしこのイルミラージュソーダはどうだろう。
サカナの沈黙と布の擦れる音から、脳みそで先生を感じ取ってくださいという試みは少なくともアニメではできないと思う。先生の姿が見えてしまえば、先生を観測することはできても感じ取ることはできなくなる。
音しかないはずの音声作品で音以外のものを叩きつけてくるという挑戦的な姿勢。音声作品では見えないはずの景色が見たい、という製作者の熱意がビシバシと伝わってくる。
いないはずの人間を体現する。そんな不可能を可能にするのが音だ。この作品の音には魂が込められている。
無人のプールの静けさを表現する声の残響や、遠くでうっすら聞こえる排気口(か何か)の駆動音が脳内に鮮やかな終末の景色を作る。
終末百合に必要なものは景色だ。無人の世界の景色さえあれば、そこにいる二人の姿は自然と浮かび上がってくる。そうなれば声が片方のみであっても百合は鮮明に浮かび上がってくる。この作品の音には景色を作るだけのパワーがある。
私は初め原っぱに寝転んでこの音声を聴いていたが、それはやめた方が良い。窓を閉め、冷暖房の効いた部屋で目を閉じて聞くべきだ。そうすれば、足音だけなく、それが壁に響く音にも気がつくだろう。
百合を楽しみながらこの不可思議な世界の考察もできるのがこの作品の楽しみの一つだ。
サカナは結局誰?なぜ世界は終わるのか?初めに与えられた情報は少ない。心地の良い音に浸りつつ想像力の翼をバサバサさせた。
とはいえ私はそんなに考察が得意ではない。私の仮説「サカナが話しかけているのは、先生の生前の姿を模したロボットであり、世界が滅びた後にサカナの思いを残しておく記憶用デバイスである」も盛大に空振りした。
正直まだあまり理解できていない部分が多いのだが、全然焦ってはいない。2周目の楽しみにとっておこう。
そんなに音声作品に詳しくない私でも「これなんかすげーぞ!?」と思った作品。このとてつもない試みが百合作品であることもすごく嬉しい。私がこの作品と出会うきっかけをいただいたように、この記事が皆さんの出会いのきっかけになるとことを願って。