いい子しかいない三角関係、一番地獄です。【合格のための! やさしい三角関係入門】

いい子しかいない三角関係、一番地獄です。【合格のための! やさしい三角関係入門】

みなさま、三角関係は好きですか?修羅場は好きですか?

私は大好きだ。

前にも後ろにも動けないがんじがらめの状況で一生懸命もがく姿からのみ滲み出るドラマがある。極限状態に置かれた人だけが咲かせる美しい花がある。

三角関係の泥臭さにはひたすら前へ進んでいくサクセスストーリーとはまた違った良さがあるのだ。

 

そんなわけで、今回は三角関係を主題とした缶乃先生の作品『合格のための! やさしい三角関係入門』(以後やさかんと呼ぶ)を紹介したい。

合格のための! やさしい三角関係入門(1) (電撃コミックスNEXT)

 

キャラクター紹介

まずはキャラクターを紹介したい。

登場するのは中学生の真幸、その先輩のあきら、あきらの友人かつ真幸の家庭教師以上。

三角関係が主題で、かつ登場人物が三人しかいない。ここから修羅場の濃度が100%であることがおわかりいただけるだろう。これには関係性のオタクもニッコリだ。

 

さらに一人ずつ詳しく見ていこう。

三角形の中心的存在、真幸

受験勉強真っ只中の中学三年生。バスケ部の先輩のあきらが大好きで、彼女のいる高校を目指して勉強中。

しかし、全てに恵まれたあきらと比べて真幸はまだまだ未熟な自分に引け目を感じている。何せ勉強もできないし、バスケの実力もまだまだだし、人生経験も足りない。「彼女の隣に相応しい人間になりたい、子どもっぽい自分に幻滅されたくない」、と悩む真幸はせめて恋愛経験は積んでおきたいと、家庭教師の凛にねだってキスを教えてもらうことになる。

 

全ては憧れのあきらに近づくため。その隣に立つためならキスだって一生懸命練習する。それが真幸である。

 

 

真幸の憧れの先輩、あきら

成績優秀で、バスケもずば抜けて上手く何でもできる人。しかも人当たりもよく、先輩からは可愛がられ、後輩からは慕われる人格者。真幸のことはかわいい後輩だと思っている。

付き合う人とはお互いに絶対的一番の存在でありたいという恋愛観があり、告白されても相手にピンとこなくて断っていた。が、あるとき凛と出会い、彼女に一目惚れしてしまう。

 

ついに出会った運命の相手、凛。その一番大事な存在になるべくアタックを仕掛けていく。それがあきらである。

 

 

心優しき家庭教師、凛

あきらの友人であり、密かに惚れられている。真幸とは高校のオープンキャンパスで一度出会い、その後偶然にも彼女の家庭教師として雇われたことで再び出会うことになる。

大切な人を一人に決められないポリアモリー的な恋愛観を持つが、それが原因で仲良しグループを崩壊させてしまったことがトラウマとなっており、再び人を傷つける恐れからあまり人と深く関わらないようにしている。

真幸の抱くあきらへの一途な思いに心動かされ、家庭教師として勉強とキスを教える。ちなみに真幸の意中の相手があきらだとは知らない。

 

壊すことしかできなかった自分だけど、真幸のためにできることがあるのならと彼女に力を貸す。それが凛である。

 

 

見てもらった通り、三人とも皆いい子だ。

今まで手に入らなかった大事なものが今度ばかりは掴めるのではないかと希望に胸を膨らませたいい子たちだ。ときには自分よりも他人の幸せを優先する優しさも持っている本当にいい子たちだ。他人を出し抜こうという考えは誰も持っていない。

では、ここで三人の関係を図に表してみよう。

試合開始。

 

良い子の修羅場ほど心に刺さる

私は修羅場とは舞台のようなものだと思っている。

開演のその時までに、各々がしっかりと準備を重ねることで最高の修羅場が出来上がる。一人では舞台を作ることはできない。本当に良い修羅場とはみんなが一丸となって作り上げるものだ。それまでに各自がどれだけしっかり下準備をしたかがものを言う。

私はそれぞれが修羅場の準備をしている段階が何よりも大好きである。

ある人は親切心で取り返しのつかないことを行い、ある人が出来心でやってしまった小さな悪事が後々関係にほつれを作ったり・・・。一見平和に見えて、実は裏で全てが壊れ始めているという無情さがゾクゾクくる。

 

やさかんの三人は本当にいい子だ。故に修羅場の残酷さが際立つ。

良かれと思ってやったことが裏目に出る。善意が地獄に奥行きを作っていく。

缶乃先生は”複数の登場人物を同時に動かす技術”がハンパなく、三角関係というリアルタイムで複雑に変化する関係性でそれが遺憾なく発揮されている。超絶技巧というしかない。

 

見てください!これが地獄です!

1巻では修羅場の下準備の段階が描かれていく。

「教え子とキスしちゃった」とか言っちゃう凛にあきらの内心がボロボロになったり、許容力のある真幸のことを凛が好きになってしまったり、あきらと自分の差をはっきりと見せつけられてしまった真幸が絶望し凛に泣きついたり。三角関係にさらなる矢印が追加されていくが、なんとか奇跡的なバランスを保っている。

そして数々の感情でパンパンになった三角関係は2巻でついにほころびを見せる。舞台の開演である。

 

↑真幸の意中の相手があきらだとわかり、この関係を続けていてはいけないと自覚しながらも真幸に惹かれていく凛。「ダメかも」と言いながら手をつなぎにいくな。

 

↑自分よりも遥かにキスがうまい真幸に腰砕けにされるあきら。こんなエロいキスを一体誰が教えたのでしょうか!凛です!わははー!残酷すぎて笑うしかない!

 

あまりの無情な展開に悶え思わず本を閉じてみれば、帯には「これが、三角関係の全員を幸せにする解決法。」の文字が。この状態から入れるハッピーエンドがあるんですか!?!?!?そもそもタイトルの「やさしい三角関係」の「やさしい」って何!?!?!?

やさし・い【易しい】の解説

2 解決や実現がたやすい。面倒なことがなく、容易である。

goo国語辞典より引用

 

やさし・い【優しい】の解説

悪い影響を与えない。刺激が少ない。

goo国語辞典より引用

そんなわけあるかい!

 

真幸、あきら、凛はみな気持ちに整理がつかないまま、矛盾と葛藤の中をさまよっている。故にどこに向かうのか、何が起こるのかはキャラクター自身も読者にも予測不可能だ。このライブ感を是非読んで感じてみて欲しい。

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