なおいまい先生の『ゆりでなる♡えすぽわーる』2巻。
百合漫画大賞2020で第7位を獲得し、応援している身としては嬉しい限り。TLでは「最高!めっちゃ好き!」という声と「精神が破壊される・・・耐えられない」という声が見られるが、この二つの感想は本質的には一緒で、みんな「精神が破壊される・・・最高!」と言っているのだと思う。私もそう思います。
以下感想(ネタバレありなので注意)
あまりに冷たい三角関係
前巻の最後に突如現れ、駒鳥に告白していった謎の後輩美鶴。駒鳥的にも雨海的にもどーなん??という非常に気になるヒキ。
距離感を大切にしているうちに押しの強い別の女に先を越されてしまうというオーソドックスすぎる百合展開。ついに駒鳥にも百合の春が訪れ・・・ない。そんなものはない。
百合的に死んでしまったストーリーはなかなかに手強く、例え第三の女の介入でも簡単に動いたりはしない。常に修羅場であるため、即席な三角関係の修羅場なぞ起こらない。ゆりぽわは実にハードな百合なのだ。
駒鳥の絶望は重く冷たい。男との結婚という余命宣告を受けた彼女は、いまさら死を回避しようとは思っていない。残りの限りある人生を大切に過ごしていきたいだけなのだ。
ドキドキもなく、ドロドロもない。冷えて固まった三角関係。やりきれない暗さと停滞感が心地いい。
静かな百合の目覚め
さて、この作品で毎回恒例となっているのが駒鳥の『百合スケッチ』である。
話の前編で駒鳥と雨海が一組の百合カップルを見つけスケッチ、さらに独断と偏見たっぷりでそのカプの設定を作り上げる。そして、後編ではカプのストーリーが実際に語られていき、読者は駒鳥の百合妄想の答え合わせをすることになるわけだ。
2巻でも三組のカプが登場したが、その中でも特に刺さったのが駒鳥たちが喫茶店で見つけた店員の二人組、真世と未華だ。
真世にとって男とはスイーツのような存在だった。人が美味しそうなスイーツを食べていればそれを欲しがり、手に入れたら今度は他の人のスイーツが気になってくる。彼女にとって恋愛とは他人のスイーツを一口分けてもらうような感覚だった。
ある日、バイト先の友人未華が恋人の元で暮らすためバイトを引退する。聞けば付き合っている相手は女の人で、そうとう大切にしているらしい。いつものように真世の目が輝き始める。
真世は二人きりのお別れ会の後、終電を逃した未華を自分の家に泊める。電気を消し、この後の展開を想像しながら会話が途切れるのを待つ。そんな中、襲う気まんまんの彼女の耳に入ってきたのは、未華からの感謝の言葉だった。結局、その夜彼女が未華に手を出すことはなかった。
祝福のLINEをしながらも、もう二度と会わないことを誓う真世。私たちはそこに静かな百合の目覚めを見つけることができる。派手でも円満でもないが、こんなひっそりとした百合があったっていい。
明かされる婚約相手の素性
駒鳥の婚約相手である花籠については今までほとんど出番がなかったが、この巻では駒鳥たちの顧問であり、花籠の親友でもある朝雛先生の視点からその素性が明かされていく。
駒鳥から見た花籠のイメージは、迫りくる悪の権化のような存在として描かれてきた。駒鳥の親の会社を買収する剛腕を持ち、気味が悪く、イケメン俳優にハイエナとメンフクロウとピーマンとゾウとモンゴリアンデスワームとオカピを混ぜてドブで煮込んだような見た目で、人の考えを簡単にひねりつぶす。駒鳥の目が死ぬのも無理はない。
しかし、朝雛の目を通して描かれていたのはどこにでもいそうなありふれた青年の姿だった。接待で食べた牡蠣のことをいつまでも引きずり、朝雛に飯の世話をしてもらい、駒鳥のために禁煙を決意する。普通に良いやつどころか、ちょっと抜けているところに好感すら持ててしまう好青年がそこにいた。
なんだこれは、全くわからん。こいつはこの世の悪を背負った百合の敵ではなかったのか。駒鳥から闇のバイアスがかかっているように、朝雛からも良いバイアスがかかっている可能性を考えても予想とはだいぶかけ離れている。
実はいいやつなんじゃね?と思ってしまいになるが油断は禁物だ。花籠は穏やかさの中に、駒鳥への強い執着を滲ませている。悪い奴かと思ってたら実はそうでもなかった!ラッキー!という楽観的な展開にはならないだろう。きっと胃が重くなるような話が繰り広げられるはずだ。私は百合ぽわの骨太な闇展開に全幅の信頼を寄せている。
絶対に駒鳥と結婚したいソウと、自由な未来に一筋の希望を見出し始めた駒鳥。そんな二人がついに出会う。次の巻も地獄が待ち受けている。
全世界待望!『カレーをたべる ❤ ふぁむふぁたる ❤』同時収録!
COMICリュウで行われた新人発掘企画『登龍門』で1位を獲得した読み切り『カレーをたべる ❤ ふぁむふぁたる ❤』も収録。なおいまい先生の持ち味である、劇薬をポップなかわいさでコーティングした百合はここでも猛威を振るっている。
人間が建前と本心の間で磨り潰されるとこんな表情になるのか~~という感動があり、この顔に私は一発でやられた。ぜひ読んでください。