ポップな百合はちょっと・・・と思ったあなたにこそ読んで欲しい作品があります【ゆりでなる♡えすぽわーる 1巻】

ポップな百合はちょっと・・・と思ったあなたにこそ読んで欲しい作品があります【ゆりでなる♡えすぽわーる 1巻】

ゆりでなるえすぽわーる 1 (リュウコミックス)

なおいまい先生の『ゆりでなる♡えすぽわーる』1巻です。

 

COMICリュウで”読者投票で一位になった作者は連載権を得られる”という企画がありまして、なおいまい先生はそこで百合作品で1位を勝ち取りこの漫画の連載が始まりました。

そしてその時の作品『カレーをたべる♥ふぁむふぁたる♥』が期間限定で公開されており、これがめちゃめちゃ良かったので感想を書いていたのですが書いている途中で公開期間が終了してしまい記事がポシャりました。

人間が愛と社会の間で潰れるとこんな顔をするんだという話がしたかった。

 

 

以下ゆりでなる♡えすぽわーるの感想です。

大体のあらすじ

高校三年生の春、友人である駒鳥の口から飛び出してきたのは衝撃的な言葉だった。

「高校卒業と同時にわたくしは死んでしまうので それまでに最高の百合スケッチブックを作りたいの」

 

駒鳥の父は大企業の社長であったが、その会社は買収の危機に陥っていた。そんなピンチをとある男が救い、その見返りという形で結婚が決まってしまったのだという。

大の百合好きである駒鳥には女の子と付き合うという夢があったが結局叶わずじまい。 もし今から誰かと付き合っても、別れることが前提の恋なんて辛すぎる。

ならば世界に溢れる百合を観測しスケッチブックに書き残すことで、死後(結婚した後のこと)の心の支えとするのだという。

こうして雨海は友人である駒鳥のために百合スケッチブックの作成に付き合うことになるのだった。

 

 

妄想と答え合わせ

政略結婚によって希望を奪われた友人に協力し、夢の詰まった百合スケッチブックを作り上げるという作品。

この漫画は前後編になっていて前編では主役の二人の話と駒鳥が百合を見つけて妄想する話が描かれる。

駒鳥は百合のために名門女子高に入っただけのことはあり、かなりの手練れである。

女二人の距離感を感じ取り一瞬でSSを作り上げる彼女の洞察力、百合想像力はかなりの腕前と言わざるを得ない。

ただ、ハピエン厨なのか最後には幸せに結ばれる結末でしめることが多い。 せめて妄想の中では幸せに終わって欲しいという彼女の境遇からくる悲痛な願いを感じて少し切なくなる。

 

後編では彼女が妄想した二人が本当はどのような関係性、経緯でそこにいたのかという本当の2人の姿が語られていく。

この答え合わせが度肝を抜かれるような正解を投げ込んでくるので実に面白い。

 

例えば地味で少しふくよかな女の子顔がよくて派手目な女の子がマックに来ているのを見つけた駒鳥は、派手目の女の子が地味な子を気に入っており目をかけているのではと想像する。

 

この正解は、まず地味目の女の子から派手な女の子への“ずっと前から好きなのに最近雑に扱われてヤキモキしている”という感情があり、そして派手な女の子から年上の幼馴染への“わかりやすいLOVEの感情”があって最後に年上の幼馴染から地味目の女の子への“全く顔に出さないし言葉したこともないけど裏で莫大な愛の感情を隠し持っている”である。

新キャラである年上幼馴染を加え入れた一方通行の魔の三角関係。 まさかマックにいた二人の裏でこれほどのドラマが繰り広げられていたとは誰が想像できただろうか。 現実は妄想より百合なりというやつである。

ハピエンな話もあったかと思えば、「死ねばいいのに」と強烈な憎しみが描かれる話もあって振れ幅の大きさ(特に負)にビビってしまう。 何というか、女の子の強い感情を描くことに容赦がない。

このように百合オタの駒鳥に共感しつつ、登場するゆりカプの関係を神の視点で楽しむのもとても面白い。

 

表紙からは想像できないスリル

そしてこの作品の魅力は何よりも正と負の不安定さにあると思う。

始めてこの作品のタイトル、キービジュアルを見たとき「お花畑みたいな百合だなぁ」と思った。 過剰なまでのハート、このベタベタするほどのガーリーさ、まるで原宿を内包しているかのようだ。

しかしお花畑というイメージはある意味で間違っていなかった。

花とは本来鳥や虫をおびき寄せるための器官である。 私はこのビジュアルに目を奪われ、ふらふらと誘い込まれてしまった。 足元に毒沼があるとも知らず・・・。

最初のページをめくって待っていたのはお花畑なんかではなかった。 いきなり現れた極限まで目の死んだ女。 話を聞くと、何よりも女の子が好きで誰よりも百合が好きなのに男との政略結婚が決まっているという。

何ですかこの重さは。 パンケーキ頼んだらカツカレー超大盛味噌汁付きが出てきたんですけど。

 

表裏が激しいのは展開だけではない。キャラクターの愛憎の温度差もものすごいことになっている。

なおいまい先生の描く女の子たちは皆、自分の想いや感情に素直だ。

好きな女の子を見つけたときは嬉しさで目がハートになるが、憎い相手にはこれでもかというほどむき出しの殺意を向ける。 深い愛情を持つような人間は負の感情表現も豊かなのだ。

 

 

その結果、漫画全体に”いつ話が急転するかわからない”というヒリついた緊張感が生まれている。

ポップな雰囲気の裏で見え隠れする巨大な感情。 過度なハートマークはそれをコーティングするためのガワである。

キュートな入れ物に女と女のデカい感情を煮詰めて詰め込んだのがこの漫画だ。

ハッキリ言ってしまうと表紙詐欺なのだけど、今回はもう気持ちがいいくらいに騙された。 完全に掌の上で遊ばされているのが心地よい。

ポップな百合はちょっと・・・と思っている人にこそ読んでもらいたいと思う。この漫画のターゲットは完全にあなたです。遊ばれてください。

 

 

最後にこの漫画を一言で表す。

これは♡♡♡女の子の素敵な感情がたくさん詰まった漫画です♡♡♡

 

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