『きたない君がいちばんかわいい』が完全に読むコロッセオだったので報告です。

『きたない君がいちばんかわいい』が完全に読むコロッセオだったので報告です。

先日、百合好きが集まるオフ会に参加した。

その会場では互いの名前を確認できるように、首からネームプレートをぶら下げることになっていた。そこには自分の名前と好きな作品を一つ書くことになっており、人の推し作品がすぐにわかるという実にナイスなシステムなのだが、そこで『やがて君になる』と並んでよく見かけたのがまにお先生の『きたない君がいちばんかわいい』だった。

きたかわは単行本で追いかけていたのだが、確か引っ越しで既刊が手元を離れてしまい、2巻で止まってしまった覚えがある。私の思い出では、結構重くて(愛的な意味でも展開的な意味でも)人を選ぶ作品だった気がしたが、そんなに一般受けする作品だったかな???

これはどうしても自分の目で確かめねばならない。使命感に駆られた私は、オフ会の帰りにアキバで即座に全巻を購入し、一息に読み終えると数多の百合オタと同じく歓喜の悲鳴をあげたのだった・・・。

 

きたない君がいちばんかわいい(5)特装版 (百合姫コミックス)

 

 

きたかわは重い。

ストーリーは、スクールカーストの上位に立ち、輝く学園生活が約束された少女愛吏が、クラスでは大人しいがトップクラスの可愛さを持つひなこに変態的なプレイをさせるというもの。

表面上は付き合いがない二人だが、放課後にこっそりと会っては空き教室でいろいろなプレイを試す。互いに元々そういう性癖がある訳ではない。愛吏は誰もが認める可愛さを持つひなこが自分にだけ見せる恥辱に歪んだ表情で独占欲を満たし、ひなこは昔から好きだった愛吏が自分に独占欲を向けてくれることを喜ぶ。

食虫、ピアス空け、嘔吐といった性癖プレイの他、いじめ、共依存といったアクの強い要素がてんこ盛りで、これらが健全なのかどうかは分からないが少なくとも癖がある作品であることは間違いない。もし右も左も分からない百合初心者に胃の位置にこれをすすめるオタクがいたら、それは強く育てるために崖から突き落とすタイプの輩なので離れた方が良いかもしれない。

 

 

特殊性癖や依存を扱った作品には「エンジョイしよう!」というポジティブなものもあるのだが、きたかわは普通に展開も重い。心臓が凍るようなショッキングな場面がいくつも出てくる。

特に「おわぁ〜〜〜〜〜エグすぎんか〜〜〜〜〜〜」と思ったのは、その段取り。

雰囲気重い作品は関係性が途中から破綻し始めて、積み重なったひび割れに耐えきれず崩壊するシーンをクライマックスに持ってくると思うのだが、きたかわの場合は全てが壊れた後も話が続き、破綻をずっと、丁寧に、しっかりと見せ続けてくる。

例えるなら、お笑いライブで最後の最後で大スベリ、ではなく「大スベリをしてまだ持ち時間が5分ある」のような状況であり、いたたまれなさから逃げることができない。お笑いでこの状況は最悪だが、この作品の場合、逃げたくなるような居心地の悪さというのは最高のエクスペリエンスとなるのですごいというしかない。「見てられない」はこの作品にとって最高の褒め言葉である。

 

読んでいる内に私たちは否応無しに気づいてしまうだろう。それは「可哀想 = 可愛い」というあまりにもストレートで認めたくない真実だ。

私たちはコロッセオの観客である。破滅という名の猛獣が二人に襲い掛かる度に歪んだ笑顔で悲鳴をあげる。「酷すぎる!こんなことがあってはならない!」と顔を覆いながら、指の間から目を爛々と輝かせる。

一体次はどんなに無惨な展開が待っているのか。ドーパミンで脳を焼かれた私たちはもう涎を垂らして次の猛獣を待つことしかできない。人を狂わせる天才的な脚本としか言いようがない。残酷をエンタメまで昇華させた極上なショー、それがきたかわだ。

 

さらにもう一つ言わせてもらえるなら、サブキャラも良かった。

歪んだ愛をテーマにした百合では二人は強い関係で結ばれているが、その楽園が完成することはない。嫉妬、恨み、疎ましさ、そういった感情を抱えたキャラが現れ、二人を邪魔するからだ。そういった仕事はクラスのモブが担ったりするのだが、きたかわの場合は自我を持ったサブキャラが自分の意志で邪魔をする。邪魔をする役割を与えられたというよりは、主人公の二人と同じく自分のエゴを貫くためにそれぞれが動き、結果的に二人にとって障害になったという感じがする。人のドラマを一番いい席で見たい者、歪んだ愛のために他人を排除する者、結局自分が一番かわいい者。それぞれが自分の考えで動くから先が読めないし、皆が作中で輝いていた。

 

 

いや〜面白い百合だった。読み終えた感想としてはやはり気軽に勧められる内容ではないのだけど、全5巻で勧めやすいのがまたウケますね。1巻を買って脱落しなければ多分大丈夫です。残りの4巻を一気に買いましょう。極上のショーがあなたを待っています。

百合漫画感想カテゴリの最新記事