今一番キテいるスポ根百合を聞かれたら私は『つばめティップオフ』を推したいのこと

今一番キテいるスポ根百合を聞かれたら私は『つばめティップオフ』を推したいのこと

はい。

つばめティップオフ!(1) (メテオCOMICS)

 

 

190cmという身長に恵まれながらもがどんくさすぎる故にスポーツを一切やってこなかった主人公つばめが、バスケ部の小さな天才プレイヤーアイビスからの誘いを受けてバスケに足を踏み入れていくというストーリー。

主人公が初心者としてスポーツの世界に入門するという話は王道中の王道だが、この漫画の面白いところは、つばめにスポーツ全般の才能がないところだ。

つばめは、天賦の才をメキメキと開花させ、「ゲェ~!!なんだあの1年!関東No.1と対等にやりあってるぞ!!」「あの子高校からバスケ始めたらしいぞ!!」と観客を沸かせるようなタイプではない。

なぜならつばめには運動神経がないからだ。恵まれた身長のせいで運動部から数多の勧誘を受けるも、その他のスペックが低くすぎるせいでことごとく失敗。家ではおばあちゃんの元で茶道を習っているという典型的な文化部型である。どのスポーツでも必須となる体力がなく、反射神経もない。そもそもそんなものを備えているなら、既に何かしらのスポーツで花を咲かせているはずなのである。

背の高さは確かにアドバンテージではあるが、致命的なポテンシャルの低さ。背の高いプレイヤーが活躍できるのは、彼女らはその他の運動能力も高いからである。しかしつばめにあるのは”背が高い”たったそれだけ。故に他のプレイヤーと同じ道を辿って追い抜かすことは彼女にはできない。ではどうするのか。

 

 

ところで私は数年前からFate/Grand Orderというソシャゲにハマっている。

このゲームのキャラクターには高レア、低レアの概念がある。滅多に出ない高レアのキャラクターは体力攻撃力共にバカ高く、必殺技もすさまじく強い。故にみな稼いだ金を湯水のようにガチャに注ぐわけだ。

では低レアキャラクターは存在意義がないのだろうか?所詮は高レアの下位互換になってしまうのか?高レアを使っていれば全て解決なのか?

そうではない。低レアには低レアの生きる道があるのがこのゲームの面白いところだ。

確かに低レアはスペックが低く、汎用性もあまりない。しかし、誰もがみな、とある役割でのみ輝く一芸を秘めており、限られた専門分野においては高レアをもしのぐ爆発力をもっている。低レアは役割にバッチリハマれば誰よりも美しい花を咲かせることができるのだ。

そして、難敵を攻略した際、高レアによるごり押しと低レアの一芸を活かした勝利、「グッとくる」のは間違いなく後者である。状況に応じて、バラバラな大きさのパズルを組み合わせるように練ったパーティが正解だったときの快感。力ではなく戦術で敵を突破した時の達成感はとにかく最高なんである。

 

つばめティップオフは正に「グッとくる」漫画である。

バスケのバの字もしらないまま、試合に出ることになったつばめに、アイビスは一つの技を教える。

振り向きざまに大きくまたぐことで相手の背後にまわる”ターンステップ”と呼ばれるその技は、驚異的に足の長いつばめが使うことで瞬時に相手を抜き去る必殺技へと昇華する。シュートの練習すらせずにひたすらターンステップのみを特訓した彼女は、練習試合で相手チームの度肝を抜いた。(勝ったとは言ってない)

その後もアイビスは次々とつばめに技を仕込んでいく。

あえて素人丸出しなつばめを出させることで相手の気を引いて隙を作る「ふにゃふにゃスクリーン」、大きい体で相手を押し込み小競り合いの主導権を奪う「足バタ」

どれも不思議な作戦だが、これがうまい具合に彼女の個性を引き出している。スポーツが得意そうなのに素人というつばめのアンバランスな印象をも逆手に取り、相手の意表を突いていく。スペックで勝る相手を素人のつばめが戦術で制していく。

 

あるとき、他の人の練習を見ていたつばめはさすがにドリブルくらいできないとなーと考える。

確かにバスケと言えば、パス、ドリブル、シュートができてなんぼというか、そもそも出来なきゃプレイにならなさそうなイメージがある。プレイヤーとなった以上、基礎的な技術から始めなくてはという思いがあるのはまぁ普通のことだろう。

しかし、アイビスはこう言う。

ドリブルが出来なくても、普通のプレイヤーならできて当たり前なことが出来なくても、立派なプレイヤーになれると。

その他の低いステータスを底上げするのではなく、長所だけに全振りし局所戦に特化させる。相手より勝るところをさらに伸ばして徹底的に使えばいい。同じ土俵で戦わなければ、上手いプレイヤーの下位互換になることはないのだ。アイビスの指導はロマンに溢れている。そしてその様子は彼女が一生懸命つばめという花を咲かせようとしているように見えて百合的にもグッとくるのである。グッとくるというのはとてもいいことだ。

 

さらに練習を続けていく中で、つばめ自身の才能が目覚め始める。

『誰にも邪魔されず、いつも同じところから打てる』というフリースローは、決まりきった所作を繰り返すことが得意なつばめとマッチ。精神を集中させて自分だけの世界に入り、茶道の動きをバスケの世界で体現する。必殺フリースロー『おけいこルーティン5秒バージョン』の誕生である。

「今ここで、世界をひっくり返す何かすごいものが生まれつつあるんじゃないか」、そんな期待をせずにはいられない。つばめは一体どんなプレイヤーになるのか。運動はできないが可能性は未知数ってすごくワクワクしませんか。

 

 

そもそもアイビスは一人でチームを勝たせるくらい上手いのに、何故わざわざ素人を一から育てるような真似をするのか。勝ちに執着する彼女が遊びで初心者を誘うとは考えにくい。

この辺はまだ詳しく語られていないのだが、昨年のインターハイでアイビスは一試合最多得点記録を叩き出したが怪我で退場してしまうという事件があったらしい。ただの事故ではなかったらしく、この件についてはみな口をつぐんでいる。

もしかしたらその事件をきっかけにスタンドプレーでチームを勝たせることに限界を感じたアイビスの元へ新たな可能性として現れたのがつばめだった、そんなこともあるかもなーと思っている。

 

まぁとにかくめっちゃ面白いです。是非。

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