『ひめちゃんは重い女』は、あなたを後ろから刺すかもしれないという話

『ひめちゃんは重い女』は、あなたを後ろから刺すかもしれないという話

ひめちゃんは重い女の子、ゆるふわな百合として楽しんでいたのだが、後半の展開の盛り上がり具合は異常だった。可愛い顔をしてるのに誰もがぶち当たる人間関係の溝を確かにエグってきたのでドキッとさせられたのである。

ひめちゃんは重い女 3巻 (FUZコミックス)

↑花束葬式先生の『ひめちゃんは重い女』。最近完結した。

 

 

出典:ひめちゃんは重い女 1巻

ひめちゃんは情緒不安定気味な女の子。不安になれば深夜でも恋人に電話をかけ、ラインが返ってこなければ病む、ちょっと愛が重たい子である。

 

出典:ひめちゃんは重い女 1巻

ひめちゃんの彼女である夜は、並はずれた気遣い力と無限の包容力と半端ない顔の良さを持つ。彼女の肯定力の前ではひめちゃんの重たさも「そういうところが可愛い」となる。

 

一見バランスが危うそうに見える二人だが、アクティブなひめちゃんは夜を引っ張り、彼女が崩れた時は(割としょっちゅう)夜が支え、なんだかんだうまくやっているのである。私は足りないところを埋め合う百合が好きだ。

 

しかし、物語後半にて、夜は自身のセクシャリティに疑問を感じるようになってしまう。それは「自分は人を愛しているのか」という根源的な問題だった。ひめちゃんを愛せなくなったのではなく、そもそも特定の個人を愛せないのでは、と悩んでいるのである。自分がわからなくなった夜は以前と同じ振る舞いができなくなってしまう。

”夜だからこそ重たい愛をぶつけられるひめちゃんと全てを受け入れる夜”の関係は完全に崩れ去ってしまった。いつも即レスな夜からのラインも今やもう返ってこない。夜に何が起こったのか理解できないひめちゃんはどうしたらいいのかわからない。

 

正解のない悩みに苦しむ二人の力になろうといろんな友人が話を聞いてくれるんだけど、みんなの行動が本当に優しいし、言ってることも全部染み込んできて、もうビビるわけです。

 

出典:ひめちゃんは重い女 3巻

↑夜のバイト先の先輩は「人は完全に理解し合うことなどできないから、究極それで別れるのもしょうがない」と説いてくれる。控えめなスタンスで夜の苦痛を和らげようとしてくれるのがいい人すぎる。

 

出典:ひめちゃんは重い女 3巻

↑ひめちゃんの友人のはじめくんは、ひめちゃんの気持ちがわかるのでいつも彼女側に寄り添ってくれる。人のために本気で怒ってくれるのがいい人すぎる。

 

出典:ひめちゃんは重い女 3巻

↑ひめちゃんの友人の夏美は、どちらかというと夜に似た考え方を持つ。夜の気持ちを理解しないひめちゃんを詰めそうになってしまう時もあったが、ひめちゃんに幸せになってほしいという気持ちは一貫していていい人すぎる。

 

出典:ひめちゃんは重い女 3巻

↑夏美の彼氏。全員が幸せになれる方法を一緒に考えてくれる。熱くなった夏美をなだめる時が素敵すぎていい人すぎる。このコマだけだと冷徹に部下を詰める上司みたいですがその真逆です。

 

 

みんなはひめちゃんや夜の苦しみを全て理解しているわけではない。当然、全員が違う恋愛観を持っている。相手に完全に同調している訳ではない。それでも誰もが二人の苦しみを減らしてあげようとしていることが美しくてたまらない。

他人を完全に理解することはできない。人と繋がりたくない人もいるし、繋がりたい人からすればその考えは根本的に理解できない場合もあるだろう。

しかし、相手のことを理解はできなくても尊重はできる。彼女らの優しい心があまりにも眩しくて、話を聞くってそういうことだよなと今改めて気付かされたのだった。

 

 

この漫画を読む前日。会社の人から電話がかかってきた。聞けば新人が辞めると言っているらしい。原因は会社の人間とのミスマッチ。

平日深夜まで飲んで翌朝寝不足になることを面白いと感じる価値観の人間が多いうちの会社では、一人の時間を大切にしたい新人はさぞや息苦しかったことだろう。わかる。私もそっちの人間だから。

でも会社の人はその息苦しさがわからない。なぜ新人の心がすり減っているのかが理解できない。

「元気になったらみんなで飲んで話を聞こうと思っている」の言葉に「そういうところですよ。」と返した時の私の気持ちが、ひめちゃんに強く出てしまった時の夏美にあまりにも重なりすぎて他人事として読めなかった。

その時の私は夏美のように相手に寄り添うことはできなかったけど、そういう人間になりたいなーと思ったのでした。

 

1巻の時にはこんなに人間関係に踏み込んだ話になるとは思っていなかった。ひめちゃんは決して人をナイフで刺すような子ではないが、この漫画は無防備な私を後ろからブスリと刺してきたのである。

「他人ってわからね〜〜〜〜」って気持ち、誰もが感じたことあるんじゃないかな。もしかしたらあなたもこの漫画に刺されるかもね。

 

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