『どれが恋かがわからない』の2ページと3ページの間で泣いてしまった話

『どれが恋かがわからない』の2ページと3ページの間で泣いてしまった話

先日発売された奥たまむし先生の新連載『どれが恋かがわからない』。1巻を読み始めてわずか3ページで、私は時代が変わる音が聞こえてしまった。堂々と体をうねる、喜びのエネルギー。この感情を伝えたい、ただそれだけの理由で私はこのサイトをやっている。

 

 

奥たまむし先生のTwitterで試し読みがあるので、それを読んでもらった方が早いだろう。私が話したいのはこの2ページと3ページ目についてだ。

 

物語は主人公の回想から始まる。友人にずっと片思いをしていた主人公は卒業式後、ついに彼女を呼び出した。ところが「私も伝えたいことがある」と、両思いを期待させる彼女の口から切り出されたのは「彼氏できた」の言葉。考えうる最悪の展開である。

しかし、主人公の姿は次のページにて希望に満ちた表情で現れる。「彼女をつくるために大学に入学しました!!」彼女になれなかった主人公が彼女を作ると決意する。ただそれだけのことで私はすっごく感動してしまった。

「私は友達なんかいらない」心折られた主人公は次に絶望の底に沈むんじゃないかと私は思った。もう人を信じない。もう同性に恋なんてしない。そういう苦悩が彼女を襲うのではないかと。しかし、ここではそんなものは一切描かれなかった。省略されたのではなく描写されなかった。

 

 

私は百合漫画の葛藤や苦悩のシーンが好きだ。

それは、女の子同士の恋愛なら同性に恋する悩みが欲しいから、のような理由ではない。キャラクターが壁を乗り越えていく過程が好きだからだ。悩み苦しみながらも前へ進もうとする姿が美しいと思うし、感動するからだ。

百合漫画では「同性に恋する葛藤」がこの壁の役割を果たすことが多かった。実際少し前のストーリー重視の百合漫画では女同士の葛藤はマストのように扱われていた気がする。

 

一方で最近の百合漫画では一切描かれないこともある。女同士で好き合っていても「いいわね〜」で終わるような作品もある。なんなら「この世界では色々あって女しか存在しません」という世界観でできており、そもそも同性へ恋する悩みが存在しない作品だってある。

 

しかし『どれが恋かがわからない』の冒頭ではわざわざ暗い過去を出した上で悩みを描かなかった。私はそこに「新しい百合を描く」という奥たまむし先生の強い意志を感じ取った。

悩む百合が絶対ではない、と。もうそういう百合はたくさん描かれてきたでしょ、と。ポジティブな百合を描く、と。主人公の決意とともに奥たまむし先生の決意が全部伝わってきて、私はなんだか泣けてしまったのだ。「彼女を作る!」という主人公の言葉は「この子に彼女を作らせる!もう悲しませやしない!」という奥たまむし先生自身の言葉でもある。

 

『どれが恋かがわからない』では主人公は”同性”の部分で立ち止まったりしない。

5人の女性から猛烈なアプローチを受ける彼女の悩みは”誰にするか”、ただそれだけだ。

それってさ、めっちゃサイコーじゃない?

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