結野ちり先生の『スカーレット』2巻の感想。ネタバレありなので注意です。
人外同士の閉鎖的な愛
スカーレットは人狼の二人組が主役の人外バディ百合である。
謎の禁薬であるエリクサーに人生を狂わされ、人狼となってしまった少女フィーネ。 彼女は、幼い時から一緒にいた人狼アイリスと共に、全ての元凶であるエリクサーを滅ぼすため戦っている。
作品を通して描かれているのはどこまでも強く、どこまでも孤独な人外の愛である。
人ならざる存在になってしまったフィーネ。人狼として人間の輪から外れて生きてきたアイリス。フィーネにとってアイリスは人の世界に生きられなくなった自分のただ一つの心の拠り所であり、アイリスにとってフィーネは孤独だった自分の隣に並び立つ唯一の存在である。
何もかも失った彼女たちにとってはお互いの存在が世界の全て。相手のためになら自分の命だってかける。それしかないのだから。
人間ではとても立ち入ることのできない、深く強い絆。悲しくも美しい二人の愛。それがスカーレットで描かれている関係である。
人と人外の間で揺れるフィーネ
さて、1巻で酒場の店主として登場したミザリーだが2巻ではいろいろあった末にフィーネと同じくLEA(国家直属魔薬取締機関)に加入することになる。
フィーネはミザリーに明らかに目をかけており、彼女に対しては朗らかな笑顔で接する。とても一巻の帯で「冷めた女騎士」と紹介されているとは思えない態度である。
フィーネにとってミザリーは自分の手で救うことができた、ただ一人の人間である。大切な家族すら手にかけてしまったフィーネの過去を考えれば、救いのような存在になっていることも納得できる。さらに、彼女は全てを失って尚人のために戦おうとするミザリーに自分の姿を重ねていた。そこに居心地の良さを感じてしまうのも無理はない。
当然、アイリスは気に食わない。
気に食わないというか、本来あってはならないことなのである。人から外れてしまったフィーネの深い孤独に寄り添えるのはアイリスしかいないはずだった。ホプキンスへの塩対応からも、フィーネが基本的に人と距離を置いていることがわかる。
彼女が心を開くのはアイリスただ一人でなければならなかった。アイリスの感情はただの嫉妬とはわけが違う。
不変かつ絶対的なだったアイリスとフィーネの関係はすれ違いを生み始める。
命がけの愛の証明
終盤、いろいろあって完全に人狼となってしまったフィーネは正気を失いながら街の人々を襲い始める。アイリスが抑え込もうとするも、既にフィーネの力は彼女を上回っており、もう誰にも止められない状況となっていた。しかし、彼女は瀕死の状態でもフィーネへの愛を叫び続けた。
アイリスの決死の行動により、フィーネは正気を取り戻すも状況は最悪。LEAによって差し向けられた猟師達がフィーネ達を殺しに次々と迫っていた。もう打つ手はない。自分たちの結末を悟った二人は世界を敵にまわすことを誓い、新たな契約を結ぶのだった。
圧巻の最終回である。
一巻から描かれてきた、人外故の孤独が生む”圧倒的な閉鎖関係”は最高の形で花開いた。全てを捨てても構わないほど愛しい気持ちは珍しいものではないが、実際に世界を敵にまわして行動で証明してしまうのは凄まじいとしか言いようがない。狂気とも呼べるその愛には確かに説得力があった。
終わり方にしても真祖の魔女を倒して丸く収まるハピエンやこれからも二人の戦いは続くエンドもあったはず。百合姫らしかぬストイックな最後からは、刺し違えてでも”命がけの愛”を描き切るという結野ちり先生の覚悟が伝わってくる。実際、二人の愛の強さ、深さを一番感じられる終わり方ではないだろうか。
巻末のIFストーリーも素晴らしい。長い戦いの末に人間に戻ることができたフィーネとアイリスの話が描かれているのだが、そのまま二人で隠居・・・とはならず、アイリスが約束通りフィーネを喰らった上で、彼女がいない世界に意味はないので後を追って死ぬという次元の高すぎる愛を見せつけてくれる。二人にとっての愛の成就は、仲良く一緒に暮らすとかそういうことではないのだろう。この終わり方もまた狂気を孕んでいてとても良い。
早く終わってしまったことは残念でならないが、人外というテーマならではの”圧倒的孤独感”、”人間では成しえない命がけの愛”は最後までブレることなく芯の通っていた最高の作品だった。