「めずらしー!おもしろー!これどうなるん?」の気持ちをくれる百合を紹介させていただこう。
みら先生の『百合SMでふたりの気持ちはつながりますか?』
皆さんが大好きなSM百合でございます。
物語の主人公、澪は高校生。親の都合により、かつての友人更紗の元で二週間暮らすことになる。
滞在初日、更紗の家を訪れた澪はショッキングな光景に出会う。更紗が自分の妹を縛りあげ、お尻を叩いていたからだ。そう、この姉妹は日常的にSMをしているのだ。
慣れない状況に困惑する澪だったが、二人と仲良くなれるならと、彼女らのやり方をなんとか受け入れようとする。更紗はそんな彼女をどんどんSMの世界へと引きずり込んでいく。
という感じのストーリー。
表紙を見て、「ほう。おそらく、恍惚とした表情でリードを握る女の子が経験者でもう一人の子をSMの世界へいざなう百合なのだな」と感じたのではないだろうか。私もそう思った。
しかし、この作品、何が一番面白いかというと、更紗はSMについて素人であることだ。
「心配ないわ。私に全て任せなさい」と言わんばかりの表情で誘っておきながら実は全然SMに詳しくない。熱意だけは人一倍強いタイプか?と思いきや、そういうわけでもない。そもそも彼女はSMが好きというわけではないのだ。
作中で、澪を犬のように散歩させるシーンがある。
澪に首輪をつけさせていた更紗はそれだけで飽き足らず、リードをつけて散歩しようと提案し、よくわからない澪は言われるがままそれに従う。こんな大胆なことを切り出すのだから普段から姉妹でこういうことをしているのだろう、と彼女は思う。
が、実は更紗は人を散歩させた経験など全くない。そんなものある方がどうかしている。
だからリードをつけたはいいが、次にやることがわからず困惑する。
↑涼しげに、大胆に澪を誘う更紗。その手は震え、額には汗が。彼女だって怖いのだ。
SMのような題材の作品は、大抵引き込む側の人間は経験者で、一歩踏み出した初心者の道案内を担うのがお約束である。
実際、澪は更紗がいつもこんなことをやっているものと思いハンドルを預けている。これが彼女にとっての普通なのであれば合わせてあげよう、と。彼女の手が震えていることも知らずに。
本人たちすらどこへ向かうのかわからない。行き先不明のジェットコースター、このスリルがたまらないのである。
ではそもそも何故更紗はそこまでして澪とSMをしたがるのか?
それを明らかにするためにはまず、更紗と妹の関係について語るのが良い。
かつて更紗と妹の間には溝があった。
遠慮しがちな姉とそんな彼女の態度に距離を感じてしまう妹。しかし、かつて妹が悪事を働いた時、姉は彼女の頬を打った。
姉は泣いていた。怒りではなく、優しさで相手を叩くことがどれだけ辛かったか。それは妹を思う愛そのものだった。
痛みが失われた姉妹の間を繋ぎ、その愛はSMとして二人の間に残ることとなった。更紗にとってSMは妹との繋がりそのものだ。
そして、澪が現れた。彼女は更紗の初恋の相手だった。
幼い頃から恋焦がれ、しかし自分には届かず、諦めるしかなかった大好きな相手が今再び自分の前にいる。
運命とも言えるチャンスを前に、また諦めようとする姉へ妹はささやく。SMに巻き込んでしまうのが良いと。そうでなくては彼女との特別な思い出は作れないと。
更紗がいつも夢見るのは小説のような純愛である。二人の繋がりの印として髪飾りをプレゼントするような甘い関係。
しかし、それは届かない夢だ。そのような薄い力では、なんの取り柄もない自分が人気者の澪を振り向かせることなどできない。
だから更紗は縄を握る。やり方がわからなくても、その手が震えていても。自分にできることはこれしかないからだ。
彼女が自分を鼓舞するためにリップを引く時、私はそこに決闘に向かう武士のような高潔な精神を見る。頑張れと拳を握らずにはいられない。
この世には、切ないと熱いを掛け合わせたSMプレイが存在する。
かつてバラバラになりかけた姉妹の心はSMで繋がった。果たして更紗と澪の心はSMで繋がるのだろうか?
めちゃくちゃ面白いです。