病月の2巻を読んだ。
うわーっとなった。あまりの濃さに脳の処理が追い付かず、読み終わってしばらく「うーむ」と唸った。ミッドサマー見終わったときもこんな感じだった気がする。
でもメチャクチャ面白いですよ、これ。心めちゃくちゃにされたし。やりすぎるだけのバッドエンドって逆に冷めるので、読後感でちゃんと心乱されるってすごいことですよ。きちんとしたバッドエンドは職人技です。
内容はもうとにかくすごくて、一言でいうなら”エゴの闇鍋”。おかげで最後の1ページまで惨劇なのである。それでも読み終わって一番最初に心に浮かんできたのは「やっぱタヤショ、ええやん・・・」だったのだ。1巻の感想でもタヤショがいいと言った気がするが、私は間違っていなかった。やっぱりタヤショがよかった。
(ネタバレはモリモリあるので注意)
1巻で「ってかこれ、もうクライマックスじゃない?」と思うほど荒れまくっていた展開。しかし、そこから息つく暇もなく、最高点は最後のページまで更新され続ける。
↑スイッチの入ったタヤショから逃げる籠屋。さすがに怖すぎる。
↑籠屋の首を絞めるタヤショの姿に戦慄する花絵たち。・・・えっ?ちょっと待って、えっえっ?右の林檎ちゃんうそでしょその顔は?目の前で人が一人死にかけてる顔それ?
↑タヤショの過去も明かされていく。正直タヤショは暗い過去が明かされずとも、既にかわいそうゲージがMAX。そんなもの見せられたらゲージが振り切れてしまう。
初めて会った花絵に、事故で失った母の姿を重ねるタヤショ。次こそは必ず自分の手で守らねばと感情が爆発、ここに激重ストーカーが誕生した。
↑安い正義を振りかざす花絵を病気と断じる林檎。治療と称し彼女に現実を教えようとするその本心は、愛か憎しみか。
↑全てが崩壊に向かっていく。
クライマックスではタヤショだけでなく、花絵、籠屋、林檎そしてモブまでもが暴走し、物語は悲劇的な結末を迎えた。気持ちいい終わり方かと言われると違うが、良いか悪いかと言われると私はかなり良かったと思う。
何故か、それはキャラクターが輝いていたからだ。
誰にでも優しい花絵の本心は、「可愛そうな人に手を差し伸べて気持ち良くなりたい」であったし、正義を執行する籠屋はショーのためなら無理やり他人を悪に仕立て上げる。きっとそれは、ほんとは全部裏がありますよってことではなくて、コインの裏表みたいなもので、角度によって見え方が変わるんだろう。
だから他人のためというのは自分のためと同じであるし、逆もまた然り。中身は同じなのだ。ならばエゴをむき出しにすることは何よりも一生懸命生きていると言えるんじゃないだろうか。
病んでるのはタヤショだけじゃない。慈善的な行動だって原動力はエゴ。エゴを病気と呼ぶのならと誰もが皆病気なのだ、というメッセージを勝手に私は汲み取った。人を良い悪いの基準で分けることはできない。一皮むけば誰もがエゴのかたまり。この世にエゴのない人間なんていないのだと。
↑このキスシーンはまじでめちゃくちゃ良すぎる。自分の役割を演じてきた林檎だが、このキスは自分をむき出しにしている感じがする。
心に響くバッドエンドってかなり難しいように思う。めちゃくちゃにすればするほど読む側は心が離れていく。いきなり狂人が投入されて皆殺し、みたいな展開でも「なんて悲劇・・・」とか思わないし。「あーあ、めちゃめちゃになっちゃった」と空虚になるだけだ。
その点、病月はちゃんとした理由があった。強いエゴを持った彼女たちのぶつかりあいは避けられなかった。日常の地続きで地獄が展開されるので心が離れることなく、「うわーーっ」とされられたのだ。
衝撃的な終わり方で「わーすげー!!!!結末やばすぎ!!!!!」という大味な感想ではなく、見事なバッドエンドを咲かせた作品として私の記憶に残り続けるだろう。
そして誰もがやばいやつになり、「みんな狂ってみんないい」状態の中で、花絵のために全員を潰したタヤショはやっぱりよかった。エゴの星空にひときわ輝く一番星、それがタヤショだ。
彼女の重い愛情が独りよがりであることは最初からわかっていたが、エゴの星空の中ではむしろ純愛にすら見えてくる。一緒に帰ろうと花絵を誘ったときにほほが染まっていた理由は、独占欲だけではなかったはずだ。やっぱりタヤショはいい。
↑多分ここ数年でみた百合漫画のキャラクターの中でもトップランクの強さ。(強さとは?)
正直まだ内容は全部消化しきれてない。まだわからないこともたくさんある。
籠屋が裏で何をやっていたのか、彼女は本当に転校生なのか?タヤショは実は籠屋を知っていた?う~んわからん、まだこれから何度も読んで楽しめそうです。