怪物の友人と添い遂げるのにそんなに多くの理由はいらない【君が肉になっても】

怪物の友人と添い遂げるのにそんなに多くの理由はいらない【君が肉になっても】

君が肉になっても (ヤングジャンプコミックス)

とこみち先生の『君が肉になっても』。好みのホームベース顔だったので迷わず購入したら、コミカルな絵柄とは裏腹に激しい百合が飛び出てきた。まぁこの表紙で平穏な内容なわけないんですけど。

 

 

ある日、ひな子は夜の街で白く巨大な醜い肉の塊が人間を貪る場面に遭遇。その正体はなんと同じクラスメイトの真希だった。詳細、原因一切不明。ただ一人正体を知るひな子と、眠ると人を喰らう怪物になってしまう真希の逃避行を描いたホラースプラッタ終末百合。

 

↑慣れてきたら可愛く見えるという逃げ道すら許さない、厳しめのビジュアル

 

クラスメイトが醜い怪物になるという重めの設定と、容赦なく人が死んでいく残酷な展開にも関わらず、それを上回るレベルで主人公のひな子が楽観的なため、そこまで悲観的な雰囲気はない。
衝撃的な出来事にいまいちシリアスになりきれないというか、学校に侵入してきた怪物を生徒のコスプレと勘違いして注意しにいく体育教師のノリがずっと続く感じ。戸愚呂弟の言葉を借りるなら「おまえもしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」

 

 

ひな子はいつでも前向きで能天気だ。

化け物になった自分をコントロールできず、ひな子を食べようとしてしまったことにふさぎ込む真希に対しても一切動じる様子を見せず、「そんなことで嫌いになるか」と言い放つ。

正直すごく軽い言葉だと思った。本気で落ち込んでる人にサラッと「まぁ元気出せよ」と言ってしまうような無責任さというか、所詮は他人事というか。真希の辛さを引き受けたら絶対この軽さは出てこないはずだろうと、このときはそう思った。

眠れば人を喰う真希が何事もない日々を過ごせるわけがなく、やがて二人の日常は崩壊を迎える。ひな子は真希を連れて逃げることを選んだ。「このままどこか行っちゃおっか」のセリフに、ひな子のゆるさの奥に潜む揺るぎない決意を少し垣間見る。

 

 

ひな子は徹底的に真希の味方である。自分の人生すら躊躇なく懸ける。人を喰らう真希と共に逃げた先に何が待ち受けているのかは想像に難くないはずだ。

しかし、そこまで真希に尽くす理由については特に描写されていない。元々同じグループでもない二人はたまにしゃべるくらいしか接点がなかった。それっぽい理由は、しいて言うなら「私思ってた以上に真希が好きみたい」というセリフが全てだ。

 

キャラの意志は、ドラマチックな過去によって動機付けがされれば説得力が出る。昔命を救われたというような経緯があれば「なるほど」と思うし、人生を懸けるという行動にも「まぁそうかもな」と思う。

でもないのもいいな、と思った。別に「思ったより好きだった」という理由で死ぬまで添い遂げてもいいじゃんね。それ以上も以下もない真希への愛。それは過去に裏打ちされたロマンティックな愛よりもよっぽど説得力を持つように見えた。

 

 

↑ひな子はその愛を多くは語らない。しかしその行動からは言葉よりも確かに愛が伝わってくる。

 

終盤、真希を助けるためにひな子は自らの手を汚すことになる。躊躇は一切ない。きっと覚悟はとうの昔からできていたんだろう。そのとき、私はあの「そんなことで嫌いになるか」の言葉が安い慰めなんかじゃなく、壮大な愛から来ていたことを知る。

 

この作品は確かにゆるい雰囲気だが、ゆるふわポストアポカリプスでは決してない。ゆるさの奥にはどうしても無視できない不条理が存在していて、その更に深くには限りなく広大な百合の海が広がっている。なかなか新鮮な読み応えだった。

 

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