たまには真面目なアンソロ読もうぜ【ショコラ:2 社会人百合アンソロジー】

たまには真面目なアンソロ読もうぜ【ショコラ:2 社会人百合アンソロジー】

ショコラ: 2 社会人百合アンソロジー (百合姫コミックス)

2019年の幕開けと共に始まった百合アンソロジーラッシュ。 正直4月に入る前には終わるだろうと思っていましたが、かなり息が長くあまりの数の多さに何を買って何を買ってないのか完全にわからなくなりました。 最終的には全部買いますがね。

アイドル、ギャルに人外、巨大感情すれ違い。 異世界転生って何じゃ???

しかし、テーマの奇抜さがアンソロの良さを決めるわけではない。 要は自分に刺さる作品がたくさん入っているのがいいアンソロなのだ。

 

そしてこの前発売された、超豪華作家勢によって描かれた珠玉の社会人百合アンソロ『ショコラ:2 社会人百合アンソロジー』がめちゃくちゃ素晴らしかった!!!のでその感想です。

 

 

 

マリッジハンティング / 森島明子

婚活に勤しむ二人のOL、裁花と仁。 だがこの二人の間には肉体関係があった。

結婚相手を探しては、その寂しさを埋めるため肌を重ねる日々。 しかしある日、仁は婚活で出会った男性から突然プロポーズをされてしまう。

 

これまでも数多くの社会人百合を生み出してきたレジェンド森島明子先生。 柔らかい画風で描かれた女の子が話の繊細さをより引き立てる。 百合エッチの直接的なシーンがなくても裸で抱き合っている絵だけで様になるんだよなぁ~。

甘さとほろ苦さを香らせた読後の余韻は社会人百合アンソロジーのトップバッターにふさわしい作品。

 

 

けむりのきみ / 郷本

主人公は社会によって磨り潰され目が濁ってしまったOL。 彼女の唯一の逃げ場所は人のいない喫煙室だった。

そんな喫煙室に突然顔がタイプの女性が現れるようになる。 毎日喫煙室で顔を合わせるたびに彼女に会うことが楽しみになっていき・・・。

 

寂れた喫煙室から始まる恋があったっていい。

学生みたいに学祭の片付け中に告白されたり屋上に呼び出されたりといったわかりやすくキラキラしたシチュエーションは社会人にはない。

でもそれがいいじゃないか。 どこに恋が落ちているのかわからないからいいじゃないか。

郷本先生、空気を描くのが凄くうまいので読んでいる間心なしかたばこの香りがした。

 

私の居場所はあなただけ / 樫風

日々仕事のいざこざでストレスを貯めるOL、奏。 彼女の楽しみはバーテンダーの麗子に会いに行くこと。

奏の仕事が終わり、麗子の仕事が始まるまでの時間、麗子を独り占めし甘えることができるその時間だけが奏の癒しなのだ。

 

限界に達したOLを徹底的に甘やかす年上。 社会に疲れた女性を癒すのは女性であれ・・・!

世知辛いはずだけどそれを上回る幸せオーラが溢れていてとても脳に効く。 このオーラには若返りの効果がありますこれはマジです。

 

 

春の嵐をまだ知らない / 桐山はるか

保険会社の窓口及び営業で働くOL、京子。 彼女の家での癒しはネットで活動するマルチタレントNANAKOの動画を見ること。

そんな彼女の元にどう見てもNANAKOに激似のお客様が保険の相談に来て・・・。

 

社会人百合に出てくる女性は基本的に会社で疲れ果てているので、私生活では何らかの方法で癒しを補給しているというのはよくあるシチュエーションだけどそれがYoutuberというのが今どきらしくていい。 Youtuberとかニコ生主みたいなネットで活動する人たちのこと何て呼ぶんでしょうね? 時代が追い付いていないのか名前がなくて困る。

相手と個人的に親密な仲になりたいというのではなくて、特別な関係を持たずに相手を支えてあげたいという徹底的な献身。 ”推し”というものがどういうものなのかよくわかっています。

この後、推しから恋人になることについての葛藤とかあったらすごく面白そう。

 

 

どっちが?どっちも? / 安田剛助

OLとしてオフィスで働く黒崎とその同棲中の恋人斉藤。 家事のほとんどを黒崎が担当していることに対し、会社の同僚は分担するべきだと注意する。 そして斉藤も働いているカフェのスタッフから向こうが何も言ってこないのは別れる危険性があると言われてしまうが・・・。

依存してるように見えて依存させられてる女と依存されてるように見えて依存させてる女の関係性を描いた作品。 安田剛助先生、さては重い女を描くの好きですね・・・?

 

 

片恋シネマ / 竹宮ジン

町の映画館の受付で働く後藤。 長い間働いていると常連のお客様と仲良くなるのはよくあることだ。

後藤は毎週水曜日のレディースデーに来る峰岸に会うのが楽しみになってくるが・・・。

 

映画館で始まる甘い恋、と思いきやラスト2ページでの思わぬ展開。

それまでの微笑ましい雰囲気をすべて裏返したその温度差に思わず「おお・・・」と声が出てしまった。 この放り投げられたような読後感がマジで強烈すぎて一番記憶に残った作品。 その技量の高さはさすが竹宮ジン先生という他ない。

 

 

レイトブルーマー / 原百合子

カメラマンの佐藤の元に舞い込んできた一本の仕事、それはグループの中で人気が低いアイドルの写真を撮ること。 普段は自然を被写体としている彼女は困惑するが、一方で依頼元のアイドル広瀬は佐藤を惚れさせてみせると自信満々。

 

社会人百合=OLというイメージが強いけども、よく考えたらそんな縛りは別にない。 カメラマンとアイドルという発想はなかなか斬新だった。

「私佐藤さんのこと惚れさせてみせますから!」ってセリフすごくない? 自分への自信の高さというよりもアイドルとしてのプロ意識の高さがすげぇと感心してしまった。 アイドルってなんでこんなにメンタルが綺麗なんだろうね?

 

 

あなたへの物語 / しーめ

閉館間際の図書館で司書の前に現れた目の死んだOL。 本を薦めて欲しいという彼女に司書は数冊の本を差し出し、それらの本を読んでいるうちにOLは元気を取り戻していく。 そんな本の交流がしばらく続いたある日、司書はOLに一冊の本を手渡す。

 

本を通じて司書とOLの距離が縮まっていく様が微笑ましい作品。

それにしても相手のことを想いながら一冊の本を書き上げるって相当大量の感情だと思うんですがいかかでしょうか。 「物語を書きたくなってしまったからですかね」で流せる量じゃないよね?

 

 

雨宿りのその後で / 小鳩ねねこ

その日は最悪だった。 仕事でイラつき、ヒールは折れ、雨は降ってくるし、タクシーは捕まえられない。

そんな地の底まで気分が落ち込んだ藤乃に一人の女性が声をかける。

 

最悪の出会いってめっちゃ百合じゃないですか? 百合だよな?

というか高野さんのイケレズ度が高すぎる。 相当の手練れと見た。 声かけるきっかけも「めっちゃ顔いいじゃん!声かけたろ!」くらいのノリであって欲しい。

 

 

LOVE LETTER / シギサワカヤ

小説家の女性の元へやってきたある依頼。 それは病気で亡くなった小説家坂井の未完の作品を完成させて欲しいという彼女の遺言だった。 小説家の女性は坂井との全ての始まりを思い返していく・・・。

アンソロ最後の締めは甘いでもほろ苦いでもなく闇の百合だった。

愛憎の念が入り混じったクッソ濃い感情、創作家という設定でしかできない関係性。 すごい圧です。 この作品只者ではない。

相手に影響された自分が執筆することで「秘密の逢瀬」なんて表現ふつう出てきますか???

ねじ曲がっているけれけど、心や体の繋がりとは別次元の強さを持った感情が見られてハッピーです。

 

 

というわけで『ショコラ:2 社会人百合アンソロジー』でした!

やはりいいですね、社会人百合。 スイートな作品もビターな作品も読みごたえがあってこれだけたくさんアンソロが出ているのもうなづけます。

テーマで話題をさらうのではなく(もちろんそういうのも好きですが)、中身でしっかり戦ってきたいいアンソロでした。

 

 

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