親子百合というジャンルがある。
上司との百合があり、友人との百合があり、姉妹での百合があるのだから母と娘の百合があるのもそう変なことではない。しかし、親子百合は商業、同人ともにあまりにも数が少なく、出会えれば超ラッキー。まるでシジミに入っている小さな蟹のような存在だ。
思うに、テーマがあまりにも骨太すぎる。というのも理由としてあるかもしれない。
しかし、なんとここに商業並みの豪華な執筆陣で親子百合の同人アンソロジーが爆誕した。
敬称略
犬井あゆ/奥たまむし/春日沙生/玄鉄絢/鳥居すみ/tMnR/中村たいやき/生肉/ねが/平尾アウリ/みさき天夢/よしむらかな/りおん
メンツの凄さは言うまでもないとして、親子百合で一本アンソロが出てきたことにもものすごい価値がある。手に取れば、その装丁からも本気度が確かに伝わってくる。今、目の前に満漢全席が出現しています。食べる以外の選択肢はないでしょう。
おかあさんと受験をがんばるまんが / 平尾アウリ
看護師を目指して受験勉強中の姉と彼女を応援する母、そして母に可愛がられる姉を羨む妹。
受験生の娘と母の百合、で、それは良いのだがとにかく会話の情報量が多い。妹はノーベル賞を取り、姉は雑草の根の長さピタリ当て賞の才能を隠しており、何故か服の袖が千切れる。「何だ・・・?何が起こっている・・・?」と状況把握している間に気づけば話が終わっていた。
つまりはいつもの平尾アウリ先生ということです。看護師王って何ですか。
今はまだ、このままで / 生肉
母への愛情が家族愛ではないと気が付き始めた娘と、彼女の成長を少し寂しく思う優しい母の話。
明るくハートフルな母娘コメディ。最後までギャグテイストなので軽いノリで読めてよかった。生肉先生のことなので「絶対押し倒すだろ・・・」と思っていたが、今回はぎりぎりで踏みとどまった(?)ようだ。
キスしたいほど可愛いのは / 春日沙生
突然の雨でプールの予定がキャンセルになってしまった娘。「おうちデートしよ?」と言い出した彼女はいきなり水着に着替えだして・・・?
娘が幼いのでおねロリ。親子百合は年の差百合でもあるし、娘の年齢によってはおねロリにもなる。母娘の場合おねロリの犯罪臭が全然しなくなるのがすごい。全然やばいのに。
無邪気な娘と過敏な母という組み合わせはなかなか珍しいんじゃないだろうか。娘の悪気のない振る舞いがアプローチとなって母を惑わすのがなかなかトリッキーで面白かった。
おしのび暮らし / tMnR
娘の先生が家庭訪問に来ることになったのだが、母は世を忍ぶ大女優で先生は彼女の大ファン。家庭訪問で正体がバレれて騒ぎになれば今までの平穏な生活ができなくなっちゃう!さぁどうする!というお話。
娘から母への愛の重さが絶妙で、独占や依存というほど大きな愛情を抱いているわけではないが「これもうちょっと大きくなったらこじらせそうやな~」というさじ加減。先生に母の正体を知らせたくなくて、しれっと嘘を盛ったのがなんともいじらしくて良かった。『たとえとどかぬ糸だとしても』では身動きが取れない恋を描いていたので、「これもそういう系か?・・・」と思ったけど読みごたえはすっきり。
愛のしるし / ねが
母が学生時代に書いた手紙を見つけた娘。その中には当時の恋人へのラブレターも入っていて・・・。
家族の過去の写真を見ると奇妙な感覚になる。多分、何でもわかっていると思っていた家族がまるで知らない人のように見えてショックを受けるんだろう。そんなこといっても過去は変えられないしどうしようもない、と娘もわかっているのにそれでも夢で母の過去を求めてしまうのがあまりにも虚しい。読み終わって心がちょっとぽっかりした。
甘くて、ほろ苦い… / みさき天夢
娘にはいきつけの喫茶店があり、そこのマスターはいつでも優しく相談に乗ってくれる。父子家庭で育った娘は、彼女の母親のような居心地の良さに心を開いていくのだが・・・。
好きになった女性が実は血のつながった母親だったら?というわかりやすい地獄。娘の苦しみなどいざ知らず、何でも受け止める母の優しさが今は辛い。親子関係が最大の障害として立ちふさがるときもあるのだ。
遠い日のさよなら / りおん
母のよりどころとなって彼女を支えると決めた娘、唇をかんで娘の子離れを応援する母の話。
母が自分を愛しているのは痛いほどわかっていても、親子愛ではない愛を望んでしまう娘。親としてのあるべき姿と孤独の間で泣く母。宿命のような別れに読み終わって胸がぎゅうぎゅう締まった。子離れ親離れは親子百合の乗り越えるべき一大テーマだよな。
Call me / 奥たまむし
包容力がある母と、再婚し新しく子供が生まれて幸せそうな彼女にすねる娘。
奥たまむし先生の短編は久々に見た気がする。エッチな展開への持ってきかたが大胆で、心から「参りました」が出てしまった。娘におっぱいを吸わせる母で「うおおおおい」となったが、すねた娘が家を飛び出して年上の彼女と普通にエッチを始め、再び「うおおおおおい」が出た。エッチへの執念、確かに伝わってきました。
スガオノママデ / よしむらかな
レズ風俗のキャストとして母とエッチする娘の話。
母を抱くためにレズ風俗で働くという展開が強すぎた。親子の”禁忌”という面がむんむんに溢れ出ているお話。別人として働いているからセーフということだったのに、最後にはその大義名分すら剥ぎ取る。ただの母娘エッチである。「お母さんを女に戻す」という言葉のパワーも凄い。
おかあさんゆび / 玄鉄絢
母の元に転がり込んできた彼女と母がエッチをしまくり、彼女と娘でもエッチをしまくるというヤバい話。母と娘もエッチをする。ヤバい。
いや合うんだよな~。合う。玄鉄絢先生の作風と爛れた関係は合う。ハイボールとたこ焼きくらい合う。家庭という閉じ切った環境でだらだらと愛し合うみたいな退廃的な雰囲気が本当に合っている。こたつでなし崩しに始まるエッチ、むんむんに漂ってくる生活感。タイトルを見てください!この内容で『おかあさんゆび』は業が深すぎるでしょう!よしむらかな先生と玄鉄絢先生はエロさに湿り気があってかなり良かった。
愛のありか / 犬井あゆ
自分を産んで逃げた母を脅して自分を抱かせ、復讐する娘の話。親子の関係を引力として描いた作品が多い中、断ち切れない鎖として描いていたのが印象に残った。血縁関係はときに呪いにもなり得る。
弱気な母をゆするというなかなか珍しい娘。完全に復讐心に染まっていれば良かったものを、愛を求めてしまっているのでの救いがない。カラメルのようにほろ苦い読後感。
同じ輪郭のモノローグ / 鳥居すみ
共に幸せになるために、運命共同体ともいえるくらい一緒に人生を歩んできた母娘。ついに迎えた結婚式にて、娘が新郎の元へいざゆかんとするその瞬間、母は彼女を連れ去ってしまう。
“私たち”の夢、”私たち”の幸せ。あなたの人生は私の人生。誰も入り込めないほど深く結びついた母娘の絆。関係性があまりにも重いので話も重たくなるかと思いきや、さわやかに逃避行していった。バージンロードを歩いている最中にお互いにどんどん離れるのが惜しくなっていくのがよかった。
中村たいやき
始まりと終わりを司るのは、同人誌で親子百合シリーズ『1×1/2-イチトニブンノイチ-』を連載する中村たいやき先生。親子百合が好きで自分で描いてしまうバイタリティもものすごいが、アンソロまで作ってしまう企画力よ。
母に親子以上の愛を抱く娘といつだって優しい母。『無償の愛』と呼ばれるように母からの愛は偉大で限りがない。自分の抱いている歪な感情にぐちゃぐちゃになる娘を母は優しく包み込む。嬉しくて苦しい、親子百合では喜びと悲しみは表裏一体なのである。
というわけで親子百合アンソロジー『My Sweet Home』を紹介した。
同人作品なので普通の本屋には売っていない。気になった人はメロンブックスかAmazonの電子版を利用しよう。
またAmazonの電子書籍には母娘百合の小説アンソロジー『いちばん近くて遠いあなたも』もある。kindleunlimited会員なら無料なのでこちらも是非。