シャドーハウス、やっと本が手に入った。
去年の年末に期間限定全話無料公開のキャンペーンがあり、「ゴシック主従百合かぁ・・・ふぅ~ん?」と暇つぶしのつもりで手を出してみたら見事にハマってしまった。クッソ面白いですよこれ。脳にゾクゾクくる。
これほど「騙されたと思って読んでほしい」が似合う漫画もなかなかないので、あまりネタバレなしで紹介していきたい。
シャドーと生き人形
この漫画では、”シャドー”と呼ばれる種族のお嬢様ケイトと”生き人形”と呼ばれる従者エミリコのお屋敷での日常が描かれていく。
シャドーはある不思議な性質を持っている。それはベタ塗りされたかのように全身が黒いという点だ。肌の色が黒いとかそういう話ではなく、闇で塗りつぶされたように真っ黒なのだ。シャドーにとって黒とは色ではなくもはや概念である。正面から見ると手前を向いているのか奥を向いているのかもわからない。
当然シャドーがどんな表情をしているかを顔から読み取ることはできない。そこで用意されるのが”生き人形”と呼ばれる人間そっくりの動く人形だ。
彼女らはただの召使ではない。
シャドーの顔を精巧に模して作られた写し鏡のような存在で、彼女らの態度、行動からその感情を推測し、自らの顔を使ってその表情を表現するのだ。
主人が楽しそうであれば代わりに笑い、悲しそうなら代わりに泣く。シャドー一人につき生き人形一体があてがわれ、身の回りの世話をしながら顔としての役目を果たしている。
エミリコはケイトと共に生活しながら、立派な生き人形になるために失敗を重ねつつ日々成長していく。
シャドーのもう一つの性質。それが”すす”である。
シャドーは常に体から黒いすすを放出する。寝ている間にもどんどんすすが出るので朝起きれば部屋中が真っ黒になる。生き人形の一日は主人の部屋の掃除から始まるのだ。
何といっても特徴的なのがシャドーの感情がすすとリンクしていることである。人が不快な気分になると自然と眉にしわが寄ってしまうように、シャドーもイライラしたりすると体からすすが出るのだ。
↑不快になると彼女の頭からすすの煙が上り、キレれば全身を覆うオーラとなる。すすは彼女の感情そのものを表している。
そしてこれを見ていただきたい。
ケイトから出たすすをひそかに集めて人形の中にしまい大切に持っていたエミリコ。「どうしてそんなことを?」というケイトの質問に対し、彼女が「これならいつでも近くにケイトを感じることができる」と答えた後のシーンである。
思わずエミリコをつっぱねるケイト。当然どんな顔をしているかはわからない。しかし、不快な時に出るはずのすすの煙は全く現れていないのである!これはあまりに純真すぎるエミリコの想いに対する最高の照れ隠しだったのだ!
女から女への感情が、細くたなびくすすの煙の有無で表現されたことが未だかつてあっただろうか?余りにも天才的で奥ゆかしい設定である。
鮮やかすぎる展開と恐ろしすぎる構想
主人と従者の小規模で慎ましい生活。そんなささやかな日常が続くと思われたこの漫画は、”お披露目”編を経てその世界をひっくり返すことになる。
シャドー一族とは何者なのか、何故生き人形なるものが存在するのか、一体誰がこの世界を動かしているのか。二人の過ごしていた小さな部屋は恐るべき世界のごく一部で、その裏側で冷酷なシステムが支配していることを知ったとき、心に引っかかっていた「もしかしたら・・・」が全て点で繋がる。二人の小さな日常はこの漫画の巨大な構想の序章に過ぎなかったのだ。てっきり女同士の感情を表すものだと思っていたすすが、そんな意味を持っていたとは!
目隠しが急に外されるような新鮮な感覚。初見でしか味わえないので、気になる方はネタバレを調べず3巻まで読んでみて欲しい。
この屋敷がどのような仕組みで成り立っているのか。その秘密を知ったケイトはある計画の実行を決意する。周りは全て敵だらけ。失敗すれば待っているのは恐らく死だ。
そんな絶望的状況でケイトは強い意志を持って立ち上がる。牢獄のような屋敷の中で知略をめぐらせ、欺き、出し抜いていくのだ。大切なエミリコを守り、この狂った世界にNoを叩きつけるために。
いやもう本当に化け物のような構想である。ゴシックな主従百合からここまで壮大な話になると誰が予想できたか?さらに素晴らしいのは世界がひっくり返っても尚作品の中心を貫いているのはケイトとエミリコの主従百合だというところだ。文句のつけようがない。
ゴシック、ミステリー、ホラー、頭脳戦を主従百合で束ねあげた傑作!どうせ読むなら三巻まで読んでくれ!!頼む!!