もちオーレ先生は私のお気に入りの漫画家の一人だ。
その奇想天外な設定とキャラクターの性癖が見え隠れする変態的な掛け合いは、好きとか嫌いといった好みの更に根っこの部分にアプローチしてくる。正に”刺さる”百合漫画だ。
この『病み月』は、もちオーレ先生(原作)と箕田海道先生(作画)のタッグによって生み出された、複雑な読み応えがなんとも癖になる闇百合漫画である。
あらすじ
霧 花絵、高校二年。彼女の平穏な学園生活を奪ったのが、周囲から『タヤショ』と恐れられるクラスメイト、田山祥子だ。タヤショに好かれた花絵は彼女からストーカーとも言えるほどのつきまといを受けていた。
タヤショの愛は重い。
付ききまとうだけでは飽き足らず、スマホの中まで監視しようとしたり、花絵に近づくものは誰であろうと排除する。その重過ぎる愛に行動力が伴ったアグレッシブなストーカーなのである。
周りのみんなは花絵のことを不憫に思いつつも、不気味で背も高いタヤショを恐れて誰も口出しすることができない。花絵は自分だけでなく、クラスメイトや友達にすら迷惑をかける彼女に疲弊していた。
ある日、花絵の行動にタヤショは不審さを感じる。彼女の不安はみるみるうちに膨れ上がり暴走、花絵を追い込んで問い詰めてしまう。
「やめてやれよ 嫌がってるだろ」
その間へ割って入ってきたのは小さな女の子だった。籠屋リョウ。正義感の強い彼女はタヤショの行き過ぎた行動にいてもたってもいられず口を出してきたのだ。
その後、再びリョウと出会った花絵はなんと彼女から「私の恋人役になれ」と依頼される。聞けばタヤショのような身勝手な人間は許しておけないが、タヤショとも花絵とも関係がない自分の立場では彼女に手出しすることができないため、その口実が欲しいのだという。確かに花絵とリョウが付き合っていることになれば、二人の仲を邪魔する者としてタヤショを成敗することができる。
根がいい子故、タヤショを陥れることに悩む花絵だったが、自分の大切な友達、そしてついに家族すら巻き込むようになった彼女の行動は明らかに度が過ぎていた。花絵はリョウの恋人役を受け入れることを決めるのだった。
押し引きがうますぎるタヤショの重さ
ストーカーの女の子を懲らしめるため、別の女の子と付き合うふりをして撃退するというストーリー。この漫画の癖になる魅力は何といっても、タヤショの絶妙なキャラ設定だ。
花絵には激重で一方的な愛情をぶつけ、尚且つ彼女からも同じだけの愛を要求。情緒不安定になればところかまわず暴走。そして花絵だけでなく周りの人間全てを自分の思い通りに動かそうとする。おそらく彼女には”迷惑”という概念が抜け落ちているのだろう。すがすがしいくらいのやべーやつだ。
擁護するのも難しいくらいにやばいキャラなのだが、このタヤショ、暴走の合間合間でしおっとした態度を見せてくる。これがかなりのくせ者で、常に暴れまわっているイメージが強いせいか、飴と鞭の効果でやたら可愛く見えてくるのだ。
しゅんとしたタヤショ
タヤショの原動力は花絵への愛情である。果てしない質量を持っているが、純粋で透明な愛である。
タヤショがたまにしゅんとするのも、どうみても嘘な花絵の演技にすぐ騙されるのも、すべては花絵への愛情から来ているのだ。故に彼女を心から嫌うことができない。
泣くタヤショ。涙の使い方がうますぎる。
すると、人間ちょろいもので心の中に「タヤショ実はいいやつなんじゃね?」という気持ちが湧き上がってくる。さらに「なんだかんだ言って花絵もまんざらではないんじゃね?」という希望的観測も湧いてくる。さすがにちょろすぎる。
こうして、ヤバいと意外にいい子の間を反復横跳びされまくった結果、「やべーのでどうにかして欲しい」という思いと「根は悪い子ではないのでうまくいって欲しい」という矛盾した思いが心の中に同居するのだ。
そんなこちら側の気持ちもいざ知らず、本編ではタヤショをシメるための作戦が開始されていく。タヤショは花絵から離れた方がいいんだろうけど、でも添い遂げて欲しいという気持ちもある・・・。ああ、でもリョウと花絵の身長差カップルも捨てがたい・・・。様々な思いが心に絡みついて離れない。
この感覚は正にやみつきという他ない。