エス、それは明治時代に実在した百合の世界
みよしふるまち先生の『ゆりかごの乙女』です。 出版社はMAGGardenで全一巻。
明治時代の袴ってロマンがあって萌えるよね。
この漫画の主人公が作中で髪にリボンを付けるようになるんだけどこれが袴とめちゃめちゃマッチしてていいんだよねー。 天晴れ!
以下感想(一応ネタバレ注意)
・百合の源流、エス
この漫画は明治ごろの女学校で実際に存在したエスという風習をテーマにしています。 エスって何?って話ですけど簡単に説明すると
上級生が可愛らしい、気に入った下級生に(逆もまたしかり)、大変奥ゆかしいお手紙をしたためるなどしてアタックをかけ、無事相手が受け入れてくれれば晴れて二人はエスの関係となります。
エスとなった二人は友達、先輩後輩とも違う特別な関係となり、一緒に帰ったり、お出かけしたり、お手紙を送り合ったりするのです。
男子禁制の女の園でのみ花開く特別な繋がり! それがエスなのです!
なんとあの川端康成もエスをテーマにした百合小説ともいえる小説を書いていますし、吉屋信子の書いた『花物語』が当時の女学生に人気を博したことからこのエスという文化がいかに広まっていたかが伺えます。
百合の金字塔『マリア様がみてる』のスール制度がこのエスから来ていることは言わずもがな。
アニメや漫画で憧れの先輩をお姉様と呼んだりするのも、エスの名残だと思われます。
こんな創作のような素敵な文化が日本に存在していたことに思いを馳せる一方で、それは当時恋をすることを許されなかった女学生達が、その乙女心を満たすための一時的な疑似恋愛に過ぎなかったことを考えると、どこか悲しい文化だなと思わずにいられないのです。
・登場人物
入江環
ナチュラルツンデレ気質の女の子。
家は船の部品を作る小さな町工場だったが、戦争特需によってお金が入り、高等女学校へ入学することになった。
学年主席なのでたくさんの上級生からエスのお誘いを受けるが、お嬢様たちのセレブなノリに肌が合わず断っている。
庭園のベンチで偶然出会った雪子とも、当初はどう接すればよいのか迷っていたが、雪子が環の名誉を守ってくれたことをきっかけに心を開いていく。
雪子
環が庭園で出会った同級生の女の子。
実は父が爵位を持つ軍人というお嬢様オブお嬢様であり、それ故周りからはどうしても距離を置かれてしまっていたが、一緒にいても気にしないと言ってくれた環と親しくなる。
・エスに思いを馳せる
何といってもこの漫画のすごいところって明治の世界観がちゃんと作り込まれているところですよね。
参考文献とか見る限り、しっかりとした下調べや時代考証をして描かれてるんだなーと思いました。
そのおかげで、エスの口にすることはおろか、心の中で形にするのも憚られるような、淡く儚い雰囲気が存分に表現されていました。
明治、大正のノスタルジックな感じいいよねー。
パーラーでソーダ水とか可愛らしすぎてワロタよね。
今でいうとスイーツ巡りみたいな感じなのかな?
いつの時代も、甘いものに女の子が心躍るのは共通。
この座り方って平成の今でもちょっとお行儀悪い座り方だと思うんだけど、お互いに心を許し合ってる感じがすごく出てて好き。
ベンチに女の子二人が向かい合って納まってるってだけでこんなに可愛いのかよ!
これが現代だったら「もしかしてこれって恋?」って発想が出てくるんだろうけど、好きとか恋って単語が言葉にも心情にも一切出てこないんだよねー。
もう思い浮かべてしまったら最後みたいな。
そこがエスの奥ゆかしくていいところでもあるけど、悲しいところでもあると思う。
それだけ当時には女の子同士の恋愛って考えが禁じられていたのでしょう。 エスも性的な繋がりまでいってしまうと異端とみなされたらしいですし。
そして最後の結末だけど、あーこうなっちゃたかーって感じ。
良くも悪くも世界観にマッチしてるというか、個人的には最後くらいちょっと創作っぽくハッピーエンドでも良かったと思う。
自分たちの意志で離れることを選ぶって切なすぎんよー!
地元へ教師として帰ってきた環が受け持った教え子はなんと雪子の子で、運命の再会を果たした二人はバーでお互いの思い出話を懐かしむ。
「あのときは私も若かったから・・・」などと言いつつ思い出と共にあの時の気持ちも湧き上がってきて・・・みたいな脳内補完するしかない。
エスって始まった瞬間、いつか来る終わりを意識してしまうのが悲しいなぁ。
というわけで『ゆりかごの乙女』でした! エスっていいよね・・・。
最近吉屋信子の『花物語』を買ったのですがまだ読めてない・・・。 早く読んでエスのノスタルジックな世界に浸りたい!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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